Blankary

羽の記憶、八空の断片

By ◆uTOLf/hIyAと八空さんFebruary 6, 202618 views
AM 7:15〘自由へのショートカット〙
鼻先をくすぐる、お兄ちゃんの作る美味しい匂い。
それが私の、世界で一番贅沢な目覚まし時計。

「……んー……起きてる、起きてるよぉ……」
【パジャマのまま窓を開ける】

朝の空気は少し冷たくて、でも私の背中にある羽をシャキッとさせてくれる。
階段を降りるのは面倒。だから、そのままベランダの縁に足をかける。
ふわっと浮き上がる瞬間の、お腹がキュッとする感覚。
重力から解き放たれるこの一瞬が、私は何よりも大好き。

「着地、成功!」
「……診空。階段という文明の利器を使いなさいって、毎朝言ってるよね?」

お説教するお兄ちゃんの顔はちょっと怖いけど、差し出されたお茶は、
今の私の体温にぴったりの温度。 論理的だかなんだか知らないけど、
お兄ちゃんの「甘やかし」は、いつも正確すぎて困っちゃう。

AM 10:30〘風の言葉、鳥の歌〙
庭の掃除中、小さなシジュウカラが私の指に止まった。
この子たちの脚から伝わる小さな鼓動がちょっとお気に入り。

「ねえ、今日はどっちの空から来たの?」

【鳥たちの目は 兄妹たちが気付かない「空の色の境目」を見ている】
【診と劇が今まで見てきた空は まだ4つ】

お父さんの「熱い空」、お母さんの「冷たい空」、
お兄ちゃんの「穏やかな空」、そして私の「自由な空」。
世界にはもっとたくさんの空があるって、この子たちが教えてくれる。

「おーい、診空。鳥と喋ってないで手を動かして。……ほら、和菓子増量中だよ」
「あ、待って! 今行く! お兄ちゃん、今のはずるい!」

PM 16:30〘重力と、絶対の背中〙
【戦場は嫌な「色」をしていた】
ねじ曲がった引力。私の羽を無理やり地面に押し付けようとする、重たくて暗い力。

(……重い。でも……!)

お兄ちゃんが配置した『鏡』。 そこに反射する光を見た瞬間、私の頭の中でメロディが弾ける。 計算なんてできない。でも、どこを飛べば「正解」かは、風が教えてくれる。

「お兄ちゃん、そこっ!」
「……了解。ベクトルを固定した。飛べ、診空!」

【空劇の声は診空に対し どんな嵐の中でも一番よく通る】
【彼が守ってくれるなら 彼女はどんなに重たい空だって誰よりも速く駆け抜けられる】

PM 21:00〘音に溶ける、一日の終わり〙
【防音室のピアノに向かう】
【言葉にできない「今日の全部」を 指先から音に変えていく】

お兄ちゃんがキッチンで立てるトントンという音。
敵を蹴り飛ばした時の、ピリッとした感覚。
夕飯の鯛が、すっごく美味しかったこと。

【ポーン】
【と 最後にひとつの音を残して振り返る】
ソファで難しい顔をして本を読んでいるお兄ちゃん。……あ、耳が少しだけこっちを向いてる。

「ねえ、お兄ちゃん。今の曲、なんて名前だと思う?」
「……そうだね。『23時に間に合った安堵』とでも名付けようか。」
「ほら、もう寝る支度をしなさい」
【そう言って本を閉じ ソファから立ち上がる兄】

「……もう。情緒がないんだから!」

でも、お兄ちゃんが淹れてくれたほうじ茶は、やっぱり最高に優しくて。
私は、私達は。
「あと4つの空」をいつか見つける日を夢見ながら、23時の静寂に身を委ねる。

今日も、いい一日だった。


〝【そう思いながら、兄妹は身をベッドに委ねるのでした⋯】〟
【⋯】
〝⋯「摩天」「羅碧」、それに「空穂」。〟
〝あと⋯「虚空」。〟
〝別に、君たちの親族ってわけでも、会ったわけでもない。〟
〝でも確かに、ちょっとだけ通ずる点があるかもね。〟
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