【注意:人によっては不快と感じる描写が含まれている可能性があります。】
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「ぇえい!また貴方ですか!?これでいったい何度目ですか!」
お昼寝日和のポカポカ陽気が広がるトレセン学園にて、のほほんとした空気をぶち壊す叫びが響いた。
周囲のウマ娘たちがなんだなんだと野次馬根性よろしく発生源へと目を向けると、そこには風紀と印字された腕章を身につけた鹿毛のウマ娘と、そのウマ娘に拘束された流星が大きい(通称エクレア)ウマ娘がいた。
これまたその2人の側には栗毛と芦毛の2人組のウマ娘がスコップを片手に呆れた様子でその取っ組み合いを眺めている。
「毎度毎度貴女を拘束する本官の身にもなっていただきたい!名前のせいでフェノーメノ先輩とバンブーメモリー先輩より出動要請掛かるんですよ?!」
「うわーっ離せー!離せー!私はイチちゃんのトレーニングでかいた汗が滴るうなじの匂いを嗅がなければならないのだーっ!」
「アンタ本当に何言ってるんですか?!」
「ウワッ…」
「あぁ!ベネッ(良し)!ディ・モールト(非常に)良いッ!もっと私を、その道端に打ち捨てられた吐瀉物を見るかのような、そんな下等な存在が意識外から不意に映り込んでしまったかのように見て蔑んでくれ!…あ、モニちゃんでもいいのよ?」
「キッッッッッ」
セクハラなどというレベルではない発言を本人に向かって言い放つ当たり、筋金入りの変態のようだ。余りのヤバさにレスアンカーワンとエイジセレモニーは若干顔を青くし、組み敷かれているウマ娘から距離を取る。
当の本人を拘束しているオマワリサンも半ば涙目になりながら、自らに職務に従事するという地獄絵図が完成した。
頬を赤く染め、ハァハァと荒い息遣いを繰り返すウマ娘をどうするかと3人が悩んでいると───
「おん?イッチじゃねーか、何やってんだンなところで」
「シップ先輩!」
まさに3女神より遣わされた救いの天使の如き神々しい後光を背負ったように見える。
…待て、コイツ本当に光ってないか?
より正確に言うならば、担がれている人一人分くらいのずだ袋からだが。
(え、あの光ってるモノはなんなん?)
(多分アグネスタキオンのトレーナーでしょ)
「オイオイオイオイ、このゴルシちゃんを差し置いてなーに内緒話してんだー?!ゴルシちゃん寂しくて大西洋横断しちまうぞー!」
「そんな事はどうでもいいんです。「おいコラ」それより、そこで組み伏せられてる変態(変態という意味)をどうしようかと思いまして」
「あん?…うわっテメーかよ。なんでジャーニー謹製の地下牢から脱獄してんだ」
「ふふふ…分かりきったことを聞くなんて、ゴルシさんもアマちゃんの苺大福。イチちゃんの青春を髪の毛一本足りとも余さず観察するのが私にとっての生き甲斐!その為ならたとえ火の中水の中ジェンティルドンナのスカートの中だって行ってみせましょう!…あ、ガイドラインはちゃんと守りますから、モノの例えですよ?」
「キッッッッッ」
あのゴールドシップが本気でドン引きしているという異常事態にその場の全員が戦慄する。
しかも遠征支援委員会(通常ステゴ組)の若頭たるドリームジャーニー渾身の地下牢から脱獄しているという新たな情報が入る始末だ。
もはや普通のやり方ではこの変態を抑える事は不可能であると思ったレスアンカーワンは、ふと手元を見る。
その手には返却予定のスコップが握られており、隣のエイジセレモニーも同様にスコップを持っている。
───瞬間、レスアンカーワンに電流走る
「シップ先輩、確かスピカって穴掘り得意でしたよね?」
「ん?あー…ダートに埋めるのはな。別に穴掘りが得意って訳じゃねーよ」
「じゃあちょっと手伝って下さい。コイツ埋めます」
「…え?」
───⏰───
ザクっザクっと砂を掘る音が夕焼けの下、トレセン学園のダートコースに響き渡る。
チームスピカから、スペシャルウィーク、キタサンブラックとアメリカから一時帰国でいるサイレンススズカと共にレスアンカーワンとエイジセレモニーはダートを掘っていた。
「これっ中々っキツいですね…っ!」
「まぁ、私たちが普段全力で走ってるって考えたら凄い締め固められてますからねっ!」
「あの、本当にダートコースに穴を掘ってもいいんですか?人手がいるって聞いたので来ちゃいましたけど…」
「許可は本官の方で取ってあるので大丈夫であります。」
「ヤメロー!シニタクナーイ!シニタクナーイ!」
「ウソでしょ…何で私まで…」
何故かG1ウィナー(それも複数持ち)が3人も穴掘りに駆り出されるという珍事が起きているが、トレセン学園の秩序を守る為と思えば些事であろう。
直立姿勢の人間が入る穴を掘るなど、人間であれば丸一日掛かってもおかしくないが、そこはウマ娘パワー。5人もいればものの30分で綺麗に穴が掘られた。
布団と麻縄で簀巻きにされた変態ウマ娘をえっちらおっちらと担ぎ、サングラスを掛けたレスアンカーワンとゴールドシップは素敵なステップを踏みながら穴へと変態ウマ娘を導く。
「うわーん!晒し首じゃないですかー!ヤダー!何でイチちゃんのうなじの匂いを嗅ぐだけでこんな目に遭うんだー!せめてイチちゃんのスリーサイズが上から【編集済み】になってその影響で体重が【微増】した時にしてくださいよー!」
「会長、判決を」
「無論、有罪だ。執行猶予も必要ないだろう。暫くダートで頭を冷やすといい」
「誰かトレーナーさん呼んでぇぇええ!」
哀れ変態ウマ娘は生徒カイチョーサンの無慈悲な断罪に断末魔をあげながら首から下をダートに埋められてしまった!南無三!
「それじゃあ解散しましょうか」
「そだね、明日もトレーニングあるし」
「皆さんもお手伝いしてくれてありがとうございます。これから夜食作るので、よかったら食べに来てください」
「本当ですか!?わぁ〜、イチさんのお料理はとっても美味しいって有名なんですよ!楽しみだなー!」
「ふむ、私も相席いいかな?恥ずかしい話、こういう機会でもなければ、余り皆と卓を共にできなくてな…」
「もちのろんですよ!」
和気藹々と花を咲かせ、一件落着と言わんばかりにその場にいたウマ娘達がゾロゾロと寮へと帰り始める。
晒し首になってしまったウマ娘が慈悲を求める声が響くが、その声に応じる者はおらず、虚しく夕焼けの空に消えていくのであった。
「…土の中って、ひんやりしてて意外と居心地いいなぁ…」
───⏰───
翌日、トレーニング中のウマ娘達が切磋琢磨している中悲鳴が響き渡る。
なんだなんだとトレーニングを中断して発生源へと野次馬根性よろしく目を向ける。
そこには昨日ダートに埋められた筈の変態ウマ娘が、風紀委員の腕章をつけたオマワリサンに腕ひしぎ十字固めを極められ悶絶していた。
眉間にマリアナ海溝よりも深い皺を作りながら、ギブアップのタップを無視してこれでもかという程強く寝技を極める様は圧巻であった。
「ダートからどうやって抜け出したとかは気になりますが…!また貴女は反省もせずレスアンカーワンさんにセクハラして〜〜!!!」
「グワーッ!ギブ!ギブ!これ以上は折れる!折れてしまいます!!!」
その側には手で顔を覆い隠し、天を仰いでいるレスアンカーワンと、そんなレスアンカーワンを極められている変態ウマ娘から守るようにして立っているオグリキャップがいた。
加えてオグリキャップの耳は、カサマツをバカにされた時と同じようにこれでもかと後方に絞られている当たり、なにが起きたか容易に想像ができる。
「ぐるるる…」
「あー…オグリ、私は大丈夫だから落ち着いて。ね?」
「ぐるるる…ゔぅー…」
「ヨーシヨシヨシヨシヨシ、良い子だから落ち着こっか。後でいっぱいジャーキーあげるからねー」
「!本当か?!」
「(犬がいるであります…)はぁー…またスピカの皆さんに埋めてもらわなくては…」
「うぎぎぎ……ん?オマワリサンってもうすぐレースに出ます?」
何とか寝技から逃れようともがいていた変態ウマ娘が、突如として動きを止めてオマワリサンにそんな事を問う。
オマワリサンも何故急にと思いながらも律儀に答える。
「?ま、まぁ…仰る通り来週末のオープン戦に出走予定ですが…それが何か?」
「あぁやっぱり!通りでちょっと体重が【微増】に増えてるなって思ったんですよ!やっぱりちょっと肉付きある方が健康的で良いですからね。ガレちゃうより全然いいと思う!」
「イヤァァア!!!変態!変態!へんったい!」
オマワリサンは悲鳴を上げ、寝技の体勢から一呼吸で巴投げを行い変態ウマ娘を投げ飛ばす。
余りのフォームの良さにレスアンカーワンとオグリキャップは思わず10点と書かれた札と歓声を上げた。
「ぶへら!?あぁ、待ってオマワリサン!その鍛えられた美しい大腿四頭筋と逞しいヒラメ筋で私をもっと圧迫して!そして圧迫祭り開催してください!」
「うわあああ!!!こっちに来るなでありますぅぅぅ!!!」
「あ、オマワリサンが逃げた」
「イチ、ルドルフとバンブーメモリーに連絡を入れた。すぐに応援に来てくれるそうだ」
「ありがと。んじゃ私はアイツ埋める準備するわ」
「手伝う。タマとイナリも呼ぶか…」
今日は逃げました、オマワリサン。