Blankary

蛍想の一幕

By ◆uTOLf/hIyAと八空さんFebruary 5, 202623 views
蛍想家の朝:AM 6:55 『空の始動』
【キッチンの蒸し器から シュンシュンと白い湯気が立ち上がる】
【空劇はすでに身なりを整え 手際よく朝食の準備を進めていた】

【今日の朝食は 出汁を丁寧に取った味噌汁と昨夜から漬け込んでおいた西京焼き】
「……よし、焼き加減も完璧だ」
【その独り言を呟く兄の腕前が 住宅街の朝に不釣り合いなほどの美食の香りを漂わせる】

AM 7:00『吹き抜けを渡る声』
【空劇はキッチンから吹き抜けの天井を見上げる】
【2階の廊下と繋がっているこの空間は 声を届けるのにもってこいだ】

「診空、あと10分で朝食だよ〜 起きてきなさーい。」
「今起きれば、デザートに試作の練り切りを付けてあげてもいいよー?」
【論理的な誘惑 しかし2階のベッドからはモゴモゴとした不明瞭な唸り声しか返ってこない】

AM 7:15 『寝起き蛍と掟の恩恵』
「……お兄ちゃん、おはよ……」
【階段の足音はしない 代わりに吹き抜けの空間をふわりと何かが降りてくる】
【寝癖のついた診空が翼を半分だけ広げ 2階の廊下からリビングへ直接着地したのだ】

「あ、また飛んで降りたね。危ないから階段を使いなさいって言ってるでしょ?」
「だってお腹空いたんだもん……。お兄ちゃんの朝ごはん、匂いだけでお腹鳴るんだよ?」

【パジャマのまま椅子に座り まだ半分寝ている診空】
【空劇は呆れ顔で溜息をつきながらも 彼女の前に完璧な温度の緑茶を置く】

「昨夜23時に寝たおかげで、睡眠時間は確保されているはずだよ。」
「さあ、食べて。今日はこれから庭の物置の整理を手伝ってもらうからね」
「えー! 掃除ー?」
【寝起きで気だるげにした彼女への提案 当然良い反応は返ってこない】
「……和菓子、もう一個増やそうか?」
「やる!! お兄ちゃん大好き!!」
【ちょろい というか兄の扱い方が上手いと言うべきか】

AM 10:00『賑やかな来客』
【朝食を終え 二人は庭へと出た】
【モルタル造りの壁に 午前中の鋭い光が反射して眩しい】

「……診空、まずはそっちの枯れ葉をまとめて。俺はラボの棚を整理するから」
「はーい。……あ、見てお兄ちゃん! 今日はシジュウカラが来てるよ」

【診空が指差した先では数羽の小鳥が彼女の肩や頭を止まり木にしている】
【彼女の類い稀ぬ特性の恩恵だ】
【彼女が庭に出るだけで この家はちょっとしたおとぎ話の庭に変貌する】

「掃除が進まないから、鳥たちに手伝ってもらったらどう?」
「えー、無茶言わないでよ。……あ、でも、あそこの高いところの枝、取ってきてくれる?」

【そう言って診空がリズムを刻むように指を鳴らす】
【すると驚くべきことに鳥たちが一斉に飛び立ち 手の届かない場所にある小枝を運んできた】
【 空劇はそれを見て「…効率はいいな」と小さく笑い 物置の重い扉を開けた】
【⋯本当は普通に羨望しているだけ】

AM 11:30『魔窟の整理学』
【物置の中にはかつて父・暁光が持ち帰ったエネミーの残骸】
【それに母・永落が保管していた古い楽譜が並んでいる】

「お兄ちゃん、これ何? すっごいキラキラしてる」
「触っちゃダメだ。それは多分4級ぐらいの異産。」
「普通に邪魔だしあってもいらないから、専用のケースに移すつもりだったんだよ。」

【空劇は手際よく異能の残滓を分類していく】
【彼の頭の中ではすべての素材が危険度と有用性でラベル貼りされていた】

「診空、遊んでないで───って、これは⋯お母さんの古いメトロノームだ。」
「壊れてるみたいだけど、診空なら直せるんじゃない?」
「あ、本当だ! 懐かしい……。後で防音室に持っていって見てみる!」

PM 12:30『至高の残り物ランチ』
【作業が一段落し リビングへ戻る】
【今日の昼食は 朝の西京焼きの残りをほぐして混ぜ込んだ──特製の和風出汁炒飯だ】

「……んー! 残り物なのに、なんでこんなに美味しいの!?」
「出汁の余りと、隠し味に自家製の醤油麹を使ったからね。旨味の相乗効果だよ」

【空劇は当たり前のように言い切る】
【だがその味は間違いなく街一番のレストランに肉薄している】
【診空は幸せそうに頬張りながらふと窓の外を見た】

「ねえ、お兄ちゃん。お父さんたち、今ごろ何食べてるかな」
「……あの人たちのことだ。どうせ現地の得体の知れない巨大な肉でも焼いて⋯」
「笑いながら『ワイルドだろ!』とか言ってるに決まってるよ」
「あはは、目に浮かぶー!」
【そんな風に他愛もない会話を話していると過ぎる時間】

PM 14:00『午後の微睡み』
【昼食後の暖かな昼下がり】
【診空はリビングのソファで鳥の羽を一枚弄りながら 少しうとうとし始めている】

「診空。寝るなら自分の部屋に行きなさい。……今寝すぎると、夜に響くよ」
「んぅ……あと5分……。お兄ちゃんの……お茶淹れる音、心地いいんだもん……」

【空劇は呆れながらも彼女にそっとブランケットをかける】
【そして自分は ダイニングテーブルでその後の計画立てを始めた。

「23時まで、あと9時間。……それまでに、やるべきことを終わらせよう」

【静かなモルタルの家の中で 時計の音だけが規則正しく時を刻んでいた】

PM 16:00『仕事の時間』
【西日が家の壁を赤く染め始める頃 リビングの空気は一変する】
【空劇は鏡の異産『鏡作』のコンディションをチェックし】
【診空は 翼の動作を確認していた】
「それじゃ、行こっか。」

PM 16:30『引力との対峙』
【夕刻の光が街をオレンジ色に染める頃】
【二人は住宅街から少し離れた廃工場跡地にいた】
【中心に浮遊するのは 少し歪な形をしたエネミー】
【周囲の瓦礫や鉄クズを磁石のように吸い寄せ 巨大な質量を形成している】

「あの個体を中心に⋯半径20メートルぐらいかな、そこが引力圏になってる?」
(索敵は意味がなさそうだ⋯羽が変に反応しそう。)
「ともかく、攻撃と使う技には注意しなきゃね。」
〈反鏡〉
【戦闘が 開始される】

【空劇は『鏡作』を展開し 背後から迫る瓦礫を鏡の面で弾き飛ばした】
【彼の瞳は エネミーが引き寄せる物体の軌道を冷徹に読み取っている】

「診空、引力に逆らって飛ぶのはエネルギーの無駄だ。」
「あえて引き込まれる力を利用して、加速に転じよう。……行ける?」
「任せてよお兄ちゃん! 重いくらい、慣れっこなんだから!」

【診空が力強く翼を羽ばたかせ 滑翔加速で空へと舞い上がる】
【その時 エネミーの放つ強力な引力が彼女を容赦なく引き摺り下ろそうとする】
【が 診空はその重圧を逆手に取った】
【翼の角度を調整し 引力に「乗る」ことで弾丸のような速度で中心部へと突っ込んでいく】
【天墜白閃の応用である】

「はあああぁっ!」


【翼を鋭くしならせ 風の刃を叩きつける】
【メインである翼の機動力は 引力という「縛り」がある戦場において】
【むしろ変幻自在な軌道を描くためのブースターとなった】

「……っ、引き込みが強くなった! 診空、離脱しろ!」
「う、動けないっ……!? 捕まっちゃう!」

【エネミーが怒りを剥き出しにし さらに出力を上げる】
【診空の体が強力な重力に捕らわれ 地面へと叩きつけられそうになった瞬間──】
(鏡作はもう使った、なら⋯)

「俺の妹に、触れるなッ!」
【白星穿地 その鋭く強き一撃により】

〘gu⋯!!〙
【エネミーの態勢 そして力が崩れる】

「サンキューお兄ちゃん! ……これで、トドメ!」

【診空が空中で身を翻す】
【引力に引かれる加速 そして翼が呼ぶ突風】
【そのすべてを乗せた渾身の一撃が エネミーの核を真っ向から貫いた】
〘gaaaaaaa!!!!〙

「「⋯よしっ!」」
【手を丸め グータッチで勝利を噛み締めた】


PM 17:30〘勝利の余韻〙
【エネミーの残骸から得た素材を袋に詰め 二人は家路につく】

「……診空、今日の翼の使い方は少し危なっかしかったよ。」
「見立て上、あと3センチ軌道がズレていたらあの鉄骨に翼を引っかけていた。」
「えー、いいじゃん! 倒せたんだし! 」
「それよりお兄ちゃん、帰り道にスーパー寄ろう? 今日、特売の日でしょ?」

【空劇は時計を見る 17時35分】
「……そうだね。急げば夕飯の仕込みに間に合うし、23時には余裕を持って寝られる」

「やったー! 今日の晩御飯、何?」
「……エネミーの素材がちょっと高く売れそうだからね。」
「少し贅沢をして、鯛のあら炊きにしようか」
「わーい! お兄ちゃんの和食、世界一!」
【喜んで抱き着く診空】

【夕焼けを背に 二つの翼の影が並んで伸びていく】
【過酷な戦闘を終えてもなお 彼らの会話の中心は】
【「今夜の献立」と「23時の門限」であった】

PM 18:30〘究極の台所〙
【スーパーでの買い出しを終え 家には夕食の準備を告げる音が響き始める】
【キッチンに立つ空劇は 手際よく鯛のあらを下処理していた】

「……診空、鱗が飛ぶからあまり近づかないで。服が汚れるよ」
「はーい。でもお兄ちゃん、今日の鯛、すっごく立派だね!」

【空劇が包丁を握れば そこはもう聖域だ】
【鯛の頭を叩き割り 霜降りにして臭みを取り除く その一連の動作には一切の無駄がない】

「酒、醤油、砂糖。比率は完璧だ。……ここに、隠し味の生姜を少し強めに」

【鍋の中で煮汁がふつふつと泡立ち】
【甘辛い そしてどこか品のある香りがリビングまで広がっていく】
【診空はキッチンカウンターに身を乗り出し その香りを胸いっぱいに吸い込んだ】

「んん〜っ! 幸せな匂い……。引力に振り回された疲れが溶けていくみたい」

「だろうね。糖分とタンパク質の補給、そしてこの香りによるリラックス効果。」
「……診空、今のうちに食卓を整えて。お茶も淹れておいたから。」

【空劇が皿を並べる】
【黄金色の煮汁を纏い ツヤツヤと輝く鯛のあら炊き】
【添えられたゴボウと白髪ネギまでが まるで料亭の一皿のような存在感を放っている】


「「いただきます!」」

【二人の声が重なる】
【 一口食べた診空の顔が 瞬時にとろけた】

「……おいひい。お兄ちゃん、これ本当にスーパーの特売? 宇宙一美味しいよ……」
「大げさだな。素材のポテンシャルを最大限に引き出しただけだよ」

【空劇は淡々と しかし満足そうに箸を動かす 外はもう真っ暗だ】
【モダンな家の窓に映る二人の姿は どこにでもある仲の良い兄妹そのものだった】

「ねえお兄ちゃん。明日はエネミー狩り、お休みだっけ?」
「いや、午前中に一つ、近隣の異変調査が入ってる。」
「…だから、今日も遅れるわけにはいかない。あと4時間後には、俺たちは夢の中だ」
【夕飯に時点で明日について考える空劇に対し】
「わかってるってば! 23時でしょ? 」
「このあら炊きのパワーがあれば、明日の朝もスッキリ起きられそう!」
【などと豪語している診空である】

PM 21:00〘防音室の夜想曲〙
【諸々の片付けを終えた二人は 1階の北側に位置する防音室にいた】
【重厚な扉を閉ざせば そこは世界から切り離された静寂の箱だ】

「……今日は、少し静かな曲が弾きたい気分」

【診空がピアノの前に座る】
【母・永落が残したグランドピアノ その鍵盤に指を走らせた瞬間 空気を変えた】
【楽譜はない 彼女の指先が紡ぐのは 今日の風の匂い 夕暮れの空の色】
【そして兄が作ったあら炊きの温かさを音に変換したような 即興の旋律だ】

【部屋の隅にある一人掛けのソファでは 空劇が小説を片手に静かにその音を聴いている】 (……今日の旋律は、いつになく優しいなぁ。)
(エネミーとの戦いで、何か思うところがあったのか、それとも単に満腹だからか)

【彼はページをめくる手を止める】
【いつも診空の世話をする彼にとって 診空の音楽は「解析不能な癒やし」だ】
【計算では導き出せないその音が 戦闘で昂った神経をゆっくりと鎮めていく】

「……ふぅ。どうだった? お兄ちゃん」
【一曲弾き終え 診空がくるりと椅子を回転させて振り返る】

「悪くない。特に中盤の転調、あれは今日の夕暮れの色に似ていたね」
「あはは、さすが! わかってくれると思った」
【空劇はサイドテーブルに置いていた 温かいほうじ茶を診空に手渡す】

「喉を潤して。……さて、時計を見てごらん」
【壁の掛け時計は、22時を回ろうとしていた】

PM 22:55
【リビングの照明が落ち 家の中は常夜灯の淡い光だけになる】
【二人はそれぞれの部屋の前──2階の廊下で向き合っていた】

「歯磨きは? 明日の準備は?」
「全部バッチリ! お兄ちゃんこそ、鏡のお手入れ終わった?」
「当然だ。……さて、時間だね」

【空劇の腕時計が 23時ちょうどを告げる電子音を小さく鳴らす】
【それが 蛍想家の一日の終わりの合図だ】

「おやすみ、診空。今日もいい一日だった」
「うん! おやすみ、お兄ちゃん。……明日も美味しいご飯、よろしくね!」
【パタン パタン】
【ほぼ同時にドアが閉まる音がして 蛍の家は完全な静寂に包まれた】

【彼らは知っている】
【明日もまた この厳格なルールと 温かい日常が彼らを守ってくれることを】

〝【彼らは永遠に知ることはない】〟
〝「明日に未来に 不幸せな日常が続くことを。」〟
〝「頑張ってね、二人とも。」〟
【八空はそう言って、今日も蛍を観察しているのでした。】
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